クリエーティブ・ビジネス塾18「アジア」(2018.4.30)塾長・大沢達男
なぜ、日本はアジアへのビジョンを、持たないのか。
1、アジアの世紀
欧米の終わり、アジアの始まり。世界は産業革命以前の1700年代に逆戻りします。
国連は出身国と異なる国・地域で暮らす人を「移住者」と定義しています。1990年代に米国に移住した外国人は1160万人でしたが、2000年代は940万人、10年代は560万人に減っています。対照的なのはアジア。90年代は100万人超でしたが、00年代は1670万人、10年代は1370万人と増えています。「希望の地」であった欧米は終わりました。受け入れ国は、230万人のタイを筆頭に、マレーシア、韓国です。送り出すのは、1660万人のインド、1000万人の中国、バングラディッシュ、シリア、パキスタン、フィリピンです。「アジアからアジアへ」が移住の大きなうねりになっています。国連の推計では欧州は10年代後半に人口減少、北米も40年に人口が減り始めます。欧米の時代は終わり、潤沢な移民による労働供給を原動力にアジアの経済規模の拡大が続きます(日経4/1)。
2、日本はアジアで食べている
「アジアの世紀」に焦点を当て日経が、「アジアの成長と日本」の3人の識者の意見を掲載しました。
1)アジアを技術革新の拠点に・・・戸堂康之早稲田大学教授(4/11)
○東アジア地域は国境を越えたサプライチェーン(供給網)で結ばれた「世界の工場」となることで経済成長を続けてきたが、ここに来て成長は鈍化している。成長を続けるにはアジアが、「工場」からイノベーション(技術革新)を創出する場に進化する必要がある。○イノベーションはさまざまな社員が自由闊達なワイワイガヤガヤと行う議論「ワイガヤ」から生まれる。対して日中韓では国内では共同研究を行うが、国同士や欧米との共同研究をしてない。○そのためにはまず国際共同研究支援、つぎに日本人の意識改革、エリート意識を捨て、中韓の企業・大学を共同研究すること、そして中韓だけでなくアジアの新興国と「知のワイガヤ・ネットワークを構築することである。
2)東アジアの農村ではなく、都市中心社会に焦点に・・・大泉啓一郎日本総上席主任研究員(4/12)
○東アジア大都市の実力は国レベルの平均化した指標ではとらえられない。たとえば上海の1人あたりのGDPは1万8000ドルで「高所得国」(中国の平均は8000ドルで「中所得国」)、バンコクは1万4000ドル(タイの平均は6000ドル)。高所得者層は急速に拡大している。○大都市では消費面だけでなく生産面でもイノベーションが加速度的に進んでいる。深圳ではドローンの最大手DJI、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の世界的リーダー企業が出現している。○日本企業は国ではなく、大都市を取り込む戦略が求められる。
3)市場ごとの意味付け価値づけがグローバル化の課題・・・川端基夫関西学院大学教授(4/13)
○日本企業は海外への拡大を続けているが、戦線拡大の難しさ、販路開拓の問題点に直面し、第2ステージを迎えている。○課題の第1は、アジア各地の人々の異なる価値観にどう働きかけるか。第2に、中間層ではなくその予備軍の価値観にアプローチすること。第3に、現地適応化への認識。地域で暮らす人々の暗黙知を把握すること。○日本で開発された商品、ビジネスモデル、技術、ノウハウだけでは通用しない。
3、一帯一路
「アジアの成長と日本」のそれぞれの先生の主張、イノベーション、都市中心、価値と意味は、よくわかりますが、では日本としてはどうするのかとなると、何とも説得力を欠きます。「大東亜共栄圏」、「五族協和」。かつて日本は明確な戦略をアジアに対して持っていました。敗戦のトラウマから立ち直るべきです。
2014年11月に中華人民共和国の習近平総書記が提唱したアジアの経済協力構想に「一帯一路」があります。「一帯」とは「シルクロード経済ベルト」で、中国西部から中央アジアを経由しヨーロッパにつながる地域です。「一路」とは「21世紀海上シルクロード」で、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、そしてアフリカ東岸を結ぶ地域です。「一帯一路」(Belt and Road)のふたつの道で、インフラの整備、貿易促進、資金の往来を促進する計画です。
「国会よ、正気を取り戻せ」。「森友学園は、財務省の問題だ。加計学園は、岩盤規制打破の問題だ。自衛隊の日報は、公文書管理の問題だ。」(国家基本問題研究所 日経広告)の主張は正しい。
国会は「アジアの成長と日本」を議論すべきで、政府は日本のアジア(北朝鮮を含めて)へのビジョンをもっと語るべきです。いまの内向きの日本は、1700年代にもどり、鎖国をしているかのようです。