クリエーティブ・ビジネス塾33「資本論③」(2018.8.13)塾長・大沢達男
ハロー!グッバイ!カール・マルクス。
1、ホラームービー
「家には便所がない。(中略)戸棚の抽出(ひきだし)に用便するかせねばならない。抽出がいっぱいになれば、それを抜いて、中味を必要とするところに空ける。日本でも、生命条件の循環は、もっと清潔に行われいる。」(『資本論(三)』p.303 カール・マルクス エンゲルス篇 向坂逸郎訳 岩浪文庫)
英国労働者の悲惨な状況の証拠としてさまざまな叙述のひとつでです。読んだかぎりでは、資本論第一巻の中では、「日本」が初めて唯一出てくるところで、驚かされます。
なぜ突然「日本」が出てくるのでしょうか。マルクスは『資本論』を書いたのは徳川末期、明治維新の前年に『資本論』は出版されています。マルクスは訪日していません。なのに日本は、生活水準の劣悪の標準として描かれています。「封建制」の日本で類推した違いありません。不用意です。
資本論が描く労働者はホラームービーです。
「彼ら(プトレタリアート)は群をなして、乞食となり、盗賊となり、浮浪人となった。」(p.373)。
「(1547年の第一法規では労働を拒む者は奴隷と宣言された、主人は)いかに厭わしい労働でも、鞭と鎖で奴隷に強要する権利を有する。逃亡14日間に及べば、終身奴隷の宣告を受けて、額か背に、S字を烙印され、逃亡3回目には、国家の反逆者として死刑に処せられる。」(p.373)。
「(7歳から13、14歳までの寄るべのない労働者)彼らは選りに選った残酷さで、鞭打たれ、しばられ、責められた。・・・彼らは多くのばあい、鞭で労働を強いられながら、骨まで飢えていた。・・・・・・じつに、幾つかのばあいには、自殺へ駆り立てられた!」(p.408)。
2、西欧社会
問題1「階級」。・・・ホラームービーのような労働者の状態は、資本主義の矛盾なのでしょうか。21世紀の現在でも、英国をはじめヨーロッパは階級社会として知られています。上流階級、中流階級、労働者階級。それぞれの階級は話す言葉も、通う学校も、生活習慣も違います。階級は固定的で、労働者階級が上流階級になることはあり得ません。サッカーのデヴィッド・バッカムは、コックニーという東ロンドンの労働者階級の言葉を話します。そもそもサッカー自体が労働者階級の楽しみ。良家のお嬢さまがサッカー場に行くことはありません。マルクスが描いている矛盾の多くは、英国の階級社会の矛盾ではないでしょうか。
問題2「麦作牧畜文明」。・・・なぜ人間が人間に対して、残虐な扱いをするか。それは欧米文明の特徴です。スペイン人は南アメリカの原住民を全滅させました。英国人は北アメリカのネイティブアメリカンを全滅させ、アメリカ合衆国をつくりました。さらに米国人は黒人をアフリカ大陸から移送し、奴隷として使ってきました。人間を蔑視し、人間として扱わっていません。それは自然に対する態度でも同じです。西欧人はヨーロッパ大陸の森林を80%破壊し、米国人は北米大陸の60%の森林を破壊しています。
なぜそんなことをするのか。「一神教」・「麦作牧畜文明」だからです。1)自然支配の世界観 2)異なるものとの対決と不寛容 3)直線的な終末の世界観 4)森の徹底的破壊と家畜以外の生物存在の拒否。対して私たちの「多神教」「稲作漁労文明」とは、1)自然への畏敬の念 2)異なるものの共生と融合 3) 命あるものの再生と循環の世界観 4)自然にやさしく生物多様性の維持(『龍の文明 太陽の原理』 p.171~6 保田喜憲 PHP新書)。マルクスの労働者階級の描写は、「麦作牧畜文明」の人間観の矛盾です。
3、憎悪
マルクスが世界の若者を魅了してきたのは、その正義感です。こんな不平等許せるか。労働者を救え。
「非熟練労働者によって熟練労働者を、未成熟労働者によって成熟労働者を、女子労働者によって男子労働者を、少年または幼年労働者によって青年労働力を次第に多く駆逐することにより、資本家は同じ資本価値をもって、より多くの労働力を買う」(p.216)
マルクスの資本主義批判は鮮烈です。しかし社会批判は痛快であればあるほど、要注意です。
「マルクス哲学の根底には、深い人間に対する憎悪があります。(中略)その憎悪が、唯物弁証法というマルクスのつくった哲学の根底に厳然として存在しているのです」(『森の思想が人類を救う』p.131~2 梅原猛 小学館)。
資本家は極悪非道な人間、プロレタリアートは神のような人間。梅原猛の指摘は鋭い。初めてマルクス主義主義に出会い、学習、論争、集会、デモ。青春の日々を、深い疑念とともに、振りかえざるをえません。