映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』で泣いた、パヴァロッティの歌で、泣いた。

TED TIMES 2020-52「Pavarotti」 9/13 編集長大沢達男

 

映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』で泣いた、パヴァロッティの歌で、泣いた。

 

1、ヴィットリオ・グリゴーロ

映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』(ロン・ハワード監督 2019)は、完璧です。泣きました。乾杯です。

ひとつのシーンが、私の心をつかみました。知っているテナー歌手、ヴィトリオ・グリゴーロ(1977年~)が登場しました。パヴァロッティの歌の魅力の証言者としてです。数年前(2015年)私は、昭和音楽大学の声楽公開レッスンで、ヴィットリオを見ていました。

ヴィットリオは、開演の30分前からステージに現れ、ピアノで遊び始めました。イタリア人です。全てが型破り。

音楽大学の大学院生、藤原歌劇団の現役の歌手への猛特訓は、予定を無視しての3時間ぶっ通し。

「あなたは歌詞が何を言っているか理解していますか?」。ある歌手は<絶望の気持ちの歌>のレッスンで、ジャケットを取られ、ネクタイを外され、シャツを脱がされるという、衝撃のシーンもありました。

楽しい歌は楽しく、悲しい歌は悲しく、オペラ歌手を演じて、気取って歌っていてはダメだ、という教えです。

あとになって知ったのですが、ヴィットリオは13歳の時にローマのオペラハウスの「トスカ」で、ルチアーノ・パヴァロッティと共演し、「il Pavarottino(小さなパヴァロッティ)」と呼ばれていました。

2、伝説のライブ・コンサート

○1990年 ローマの3大テナー ワールドカップイタリアの前夜祭・・・ イタリア・モデナ生まれのルチアーノ・パヴァロッティ(1935~2007)、スペイン・マドリード生まれのプラシド・ドミンゴ(1941~)、スペイン・バルセロナ生まれのホセ・カレーラス(1946~)。三大テナーのコンサートです。

驚くは、三人の歌唱力が、甲乙付け難いことです。見事です。オー・ソレ・ミオ ローマの古代遺跡・カラカラ浴場、なんという舞台装置でしょう。

○1991年7月30日 ロンドン・ハイドパーク 自然災害救済のためのチャリティ・コンサート・・・土砂降りの雨の中での、10万人コンサート。たくさんの傘で、ステージが見えません。ブーイング。そこで前列のダイアナ王妃自らが、傘を閉じ、雨に濡れる勇気を示し、会場の傘は全て閉じられます。

ステージからパヴァロティはダイアナに語りかけます。「もし夫であるチャールズが、許してくれなら、あなたのために、プッチーニの『マノン・レスコー』からなんと素晴らしい美人を、プレゼントします」

そして10万人監視の中で、二人のデートが始まります。

コンサートが終わり、びしょ濡れのダイアナが、バック・ステージにやってきます。彼はすかさず彼女を誘います。打ち上げパーティーにおいでになってください。あり得ない。そして二人の関係が始まります。

○1995年イタリア・モデナ  チャリティ・コンサート・・・「Pavarotti & friends Children of Bosnia」というタイトルの、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の犠牲者、子供たちへの支援コンサートです。パヴァロッティは「U2」のボノに仕掛けます。ボノが新しい曲を作り、ポップ・ミュージックの仲間を動員します。

「ルチアーノがハイC(高音)を歌えないって?音楽をわかってないな。彼は挫折を重ねないと出せない声を出している。歌手は自分の人生を差し出して歌うんだ」。Yes!その通りです。ボノ!

○2006年トリノ冬期オリンピック閉会式・・・「トゥーランドット」から誰も寝てはならぬを歌い、これが最後のステージになり、翌年パヴァロッティは71歳でその生涯を閉じます。

3、女性

この映画のドラマ上の主役は、パヴァロッティをめぐる女たちです。まずダイアナ王妃。まさかの、まさか・・・。それは問いません。

つぎは前妻のマドゥア・ヴェローニ夫人。ルチアーノがテノールなら、マドゥアはバス。怖いほどの低音です。そしてニコレッタ・マントヴァーニ夫人(1969~)。ニコレッタは2003年に34歳で68歳のパヴァロッティと結婚し、アリス(アリーチェ Alice)を生み、今ではパヴァロッティ博物館の館長。パヴァロッティの何百億円といわれる遺産は誰のものに。あのイル・パヴァロッティーノ(ヴィットリオ・グリゴーロ)は、2019年の来日公演で、女性ダンサーへの身体接触で告発され、公演を下ろされています。女性は怖い。映画『グラン・ブルー』(リュック・ベッソン1988年)の命知らずのダイバー、エンゾ・モリナーリ(ジャン・レノ)はマンマ恐怖症でした。Mammaは母の愛を賛美した歌ですが、イタリア女性は怖いのでしょうか。

ま、ともあれ、素晴らしい映画。ルチアーノ・パヴァロッティロン・ハワード監督に、も一度、乾杯。