TED TIMES 2020-68「トランプの敗因」 12/30編集長大沢達男
米国史上、再弱の大統領バイデン。そして台湾での米中衝突へ。
1、敗因
歴史人口学者のエマニュエル・トッドが面白い分析をしています。
まず、だれがバイデンに投票したか。
1)超学歴層と富裕層。前回超学歴層はクリントンでしたが富裕層はトランプでした。2)黒人。高学歴で富裕層も低所得の黒人もバイデン。トランプの政策は黒人低所得に望ましいのに、人種問題につられてバイデンに投票しました。3)ヒスパニックの2/3がバイデン。これはトランプの戦略ミスです。最高裁判事にエイミー・バレットではなくヒスパニック系のバーバラ・ゴアにすれば結果は変わっていた。
投票行動では二つの社会ビジョンが対立しています。1)人種的不平等で92%がバイデン、2)コロナで81%がバイデン、3)経済で83%がトランプ。4)犯罪と治安で71%がトランプ、5)医療政策で62%がバイデン、に投票しています。
「人種的不平等」、「コロナ」、「医療政策」を重要視した有権者がバイデンに、「経済」、「犯罪と治安」を重視した有権者がトランプに投票しています。つまり選挙の争点は経済から、人種・ジェンダーに変わっています。
トッドは指摘します。経済は合理的に妥協であるが、「人種」、「ジェンダー」は妥協が困難で、果てしない対立を生む。民主党は病的なヒステリーだと言います。
トッドは、米国が超学歴者層と富裕層の寡頭支配である、とします。有名大学経済学者、『ニューヨークタイムズ』、『ワシントンポスト』の高級メディアのジャーナリスト、東西沿岸部のエスタブリッシュメントが、経済政策ではなく空虚な信仰「自由貿易」を護持している。「万国の金持ちたちよ、団結せよ!」。もし寡頭支配のリーダーが賢いなら、ロシアとイランと和解して「中国封じ込め」をとる、というのです。
やはり米国にとっての最重要課題は中国です(「それでもトランプは歴史的大統領だった」 エマニュエル・トッド 『文藝春秋 2021.1』 p.104~111)。
2、バイデン
バイデンは、「アメリカ史上最も弱い大統領」になる、中国はホッとしている(竹中平蔵)。バイデンは長い目で見てアメリカにマイナス。政治の素人トランプは、アメリカを新しい方向に導こうとした(呉軍華)。「米国にとって中国はロシアをしのぐ最大の脅威である」(呉、マイク・ペンス副大統領)。悪いのは中国共産党で中国国民は悪くない。トランプは中国国民の不満をつつこうとした(竹中)。バイデン政権のどこかで台湾危機が起こる(呉)。米中が台湾がぶつかる可能性は75%。日本は25%の可能性を探る必要がある(竹中)。中国は西洋伝来のイデオロギー・共産主義+真の始皇帝以来の中央帝政の合体。米中対決を避けることはむずかしい(呉)。
「徹底討論 日米中激突」(『文藝春秋2021.1』 p.95~103)では、結論的な提案はありません。
なぜトランプは前回の大統領選挙で勝利したか。4年前に伝統政治が限界に達していたから。その意味で、バイデン政権は、米国が構造問題を解決するための貴重な4年間を失う、だけになります(呉軍華 日経12/18)。
なんとも厳しい。ただいえるのは、バイデンには何も期待できない、ということです。
3、米中
米中通商摩擦は「デカップリング(分断)」を呼ばれています。まずWTO(世界貿易機関)の機能不全です。現在機能していません。次に関税戦争です。米中は追加関税を発動し合っています。そしてファーウェイへの制裁です。さらにTPPもあります。米国は離脱しました。中国は参加への関心を示しています。
つぎに「スプリンターネット(インターネットの分断)があります。インターネットは中国とブロックと米国ブロックに分断される方向に進んでいます。
さらに米国は「クリーンネットワーク」政策を発表しています。ファーウェイへの製品供給を禁止したように、中国企業を米国の通信ネットワークから全面排除する、5G、クラウドサービスを含むものです(クリスティーナ・デービス ハーバード大学教授 日経12/17)。
冷戦から熱い戦争へ。台湾での米中危機は75%確率で起きる。これは避けられないかもしれません。