鈴木宗男、佐藤優、そしてもう一人ロシアの肩を持つ男がいる。それが五木寛之。

THE TED TIMES 2022-11「ロシア」 3/29 編集長 大沢達男

 

鈴木宗男佐藤優、そしてもう一人ロシアの肩を持つ男がいる。それが五木寛之

 

1、五木寛之

成田→パリで、モスクワ・シェレメチェボ空港に3時間、トランジットで滞在しただけの私には、ロシアのことは何もわかりません。ただ照明が暗くて、いち早く脱出したいと思っていましたが・・・。

身近な人で思わぬ人が、ロシアの専門家であることを忘れていました。

ソ連を題材にした小説でデビューした五木寛之です。

直木賞受賞作『蒼ざめた馬を見よ』(五木寛之 文藝春秋)は、なんと1966年の発表です。

物語は、日本の大新聞の論説主幹が、ソ連の抑圧と自由への戦いを描いたソ連の作家の小説を日本に持ち出し出版し、世界に衝撃を与えるというものです。

ネタバレになりますが、その小説は日本人の論説主幹が仕組んだ「自由」のための贋作(がんさく=にせもの)だった、というのですが。

「西側の陣営は、ソ連には自由がない、という月並みなスローガンを、この辺でもう一度世界に叩き込んでおこうと企てたのです。」(p.92)

「自由、という一つの観念を餌に仕かけた世界を包む巨大な罠」(p.99)

つまり、リベラリズムで論陣を張る新聞などあてにならない、と小説は描いています。

そして『青ざめた馬を見よ』文庫版所収の『赤い広場の女』では、モスクワを訪れた日本人のテレビ局社員を町案内役にロシア人の女性を登場させます。

彼女はウクライナ出身、でも第2次世界大戦で自らの家族を守るためにユダヤ人一家をナチス・ドイツに売った、苦い経験を持っていました。

「わたしは近いうちにウクライナの田舎へ帰ります。もうお会いすることもないでしょう」(p.122)

小説はロシア、ウクライナユダヤ人・・・日本人には理解しがたい世界に光を当てています。

さらに同じく文庫本所収の『夜の斧』では、シベリアの日本人捕虜労働隊の一人が主人公で、ソ連への協力を条件に日本への帰還が早期に許されます。

「君は今日から正式にわれわれの協力者になるのだ。われわれの目的は、日本の真の民主化社会主義社会の確立にある。」(p.208)

封建制と資本の綱を一挙の断ち切る正義の斧(タポール)を君は祖国に持ち帰るのだ。」(p.210)

そして20年後、大学教授として平和そのものの日常を送っている彼に、ソ連政府の組織から協力要請の連絡がきます。

小説は自治体の首長や大学教授としてモデルが実在しそうなインテリジェンス・オフィサー(スパイ)や諜報戦を想像させます。

『蒼ざめた馬を見よ』は、さすが直木賞、さすが五木寛之です。

半世紀以上昔の昭和の小説とは思えません。平和憲法で偉そうに鎖国をしている今の令和の日本人への警告があります。

2、佐藤優

ウクライナ問題を理解したいのだったら、直木賞を取った『蒼ざめた馬を見よ』は必読です。」(『異端の人間学佐藤優×五木寛之 p.140 幻冬舎新書)。

ロシア問題のプロ中のプロである佐藤優は、五木寛之を推奨します。

ウクライナ問題に関する報道を見ていると、欧米の見方をそのまま垂れ流しにしているものも少なくありません。それを鵜呑みにすることの危険というものがズバリ『蒼ざめた馬を見よ』では描かれていると思いました。」(p.140)。

佐藤優は1988年から1995年までソ連・ロシアの日本国大使館に勤務していました。2002年5月に鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕され、512日に及ぶ東京拘置所での勾留後、2003年10月に保釈、2009年7月に懲役2年6ヶ月執行猶予4年の有罪判決が確定。その後現在のような文筆の仕事をしています。

ロシア問題のプロ・佐藤優が、五木寛之をロシア問題のプロと認めています。

1991年、外務省の佐藤優は、鈴木宗男バルト三国訪問の際に通訳をし、親密になります。

3、鈴木宗男

なぜウクライナがこんなことになってしまったのか。鈴木宗男はこう結論づけます。

まず、ゼレンスキー大統領は、プーチンと話し合わなかった。かわりにゼレンスキー大統領は、ウクライナ東部に自爆ドローン(無人攻撃機)を飛ばし、ロシアを挑発した。

つまり戦端の口火を切ったのは、ゼレンスキー大統領だったのです。

鈴木宗男「人道回廊を通じて、ウクライナの避難民がロシアやポーランドに避難しています。民間人の犠牲を出さないよう、プーチン大統領が配慮していると思います。」

田原総一郎「(前略)鈴木さんみたいな意見は、佐藤優さん以外日本では誰もいませんよ(筆者注:鈴木さんみたいな意見とは、プーチンの肩を持つ意見)。」

(「歴代総理が頼ったロシア通・鈴木宗男が語る 日本のメディアが伝えない『プーチンの素顔』『ゼレンスキーの怠慢』 gendai.ismedia.jp 現代ビジネス 2022.3.24)

はたして、圧倒的少数派の鈴木宗男佐藤優の「プーチンの肩を持つ意見」は、間違えているでしょうか。

日本の国会はオンライン形式でゼレンスキー大統領に演説をさせました。

戦争反対は子供にでもわかる正義です。

でもなぜ戦争が起きたか、何が戦争を止めるのか。欧米の見方の垂れ流しではわかりません。

ロシアの肩を持つ鈴木宗男佐藤優、そしてもうひとり五木寛之に注目します。