THE TED TIMES 2023-13「ジャクソン・ブラウン」 4/1 編集長 大沢達男
生きる意味を教えてくれた、ジャクソン・ブラウン「渋谷コンサート」。
1、我武者羅(がむしゃら=Running on empty)
ジャクソン・ブラウンの渋谷コンサート(3月27日 オーチャード・ホール)は素敵でした。というより、私の人生を変えました。
コンサートの最後の曲は、「Running on empty=我武者羅(私の翻訳)」でした。
♬タイヤの下を通り過ぎて行く道を見過ごし/夏の草原のように過ぎ去っていった年月を振り返っている/
1965年に僕は17で一生懸命生きていた/僕はどこでどう生きているのか分かっていなかった/
生きていた生きていた我武者羅に/生きていた生きていた闇雲に/生きていた生きていた太陽に向かって/でも僕は闇雲だった
一生懸命に愛を確かめたてきた/迷いのないよういつまでも続くように/
1969年僕は21で自分の人生歩んでいた/
生きていた生きていた我武者羅に/生きていた生きていた闇雲に/生きていた生きていた太陽に向かって/でも僕は闇雲だった♬
ほんと、私自身も我武者羅に闇雲に、生きてきました。
私はジャクソンよりちょっと年上ですが、絶望的な時代を生きていました。
当時は学生運動の時代でした。新左翼のセクト争いの時代で、私の友人は恋人を対立するセクトに取られ、自殺しました。
友人の手記『青春の墓標』はベストセラーになり社会的な事件になりました。
私は、マルクス主義ではなく、アルベール・カミユとジャンポール・サルトルの実存主義のを選びました。
「人生生きるに値しない」。「自殺こそ哲学の最大の問題である」。
そして、ジョン・コルトレーンやアルバート・アイラーを求めてジャズ喫茶に、通うようになります。
しかし、神であったコルトレーンは1967年の夏に死んでしまします。
あの日の衝撃を今も忘れることはできません。
コルトレーンの創造への意欲は凄まじかった。音楽を破壊し、さらに自分の精神と肉体を解体するまで、戦っていました。
結論が死。ジャズは終わりました。
コルトレーンの死を語るべき相手を持たない、たった一人ぼっちの私の青春も終わりました
2、ロック
1969年、米国でウッドストック、ロックの時代になります。
日本でも負けずに、1969年からの中津川フォークジャンボリー、1971年の第3回に私も大阪の友人と参加(観客)しました。
東京では日比谷の野外音楽堂、高円寺の次郎吉、下北のロフト(当時はありました)、京大西部講堂、京都の磔磔(タクタク)、大阪の万博広場での8.8ロックデイ。
私はロックをいつも探していました。ロックという非日常が生活の目的・生きる目的になりました。
ジーンズ、Tシャツ、スニーカー、革ジャン、ブーツ。私は西海岸で買ったきた、最新ファッションでを身を固めたロック貴族でした。
当時、CM撮影のロケで、定期的にロスやシスコに出かけていた私は、業界でも有数のファッションとロックの情報通でした。
あれから半世紀、2023年3月のジャクソン・ブラウンの渋谷コンサートは、まさにあの時代そのままでした。
観客だけがコンサーバティブなファッションの老人の集まりでした(だれもフライのブーツなんか履いていないし・・・)。
観客とのちょっとしたやりとり、コンサートという名のコミュニティ、ジャクソンのヒッピーライクでフレンドリーな語り口は、圧倒的に70年代のあの頃でした。
キーボードの女性、ベースギター、リードギター、スティール・ギター、ドラムス、そして二人の女性バックアップ・コーラス、みんなロックをやりたいからという理由で、ここに集まっている。
だから曲のイントロを間違える、平気でやり直す、ピッチ(音程)が狂っている、いつ終わるかも分からないアンコールが続く、ミュージック・ビジネスなんてやっていない。
すべてがあの頃のロックコンサートそのもの。70年代そのままでした。
3、色即是空(しきそくぜくう=Take it easy)
ジャクソン・ブラウンの渋谷コンサートの最後の最後は、ジャクソンがイーグルスのグレン・フライにプレゼントした『Take it easy (色即是空=私の翻訳)』でした。
♬僕は懸命に生きている なんとか苦悩から逃げようとして/7人の女が心に浮かんだよ/4人は僕とやりたがった/2人は僕をトリップさせたがった/
ひとりは僕の友と言った/色即是空/色即是空/ドタバタ歩きはダメ/狂っちゃいけない
気楽に行こうできるさ/お利口さんになったらだめ/いい場所探そうなんとかなるさ/色即是空
ジャクソンは自分のことを歌っています。だから説得力がある。何よりよく鳴る声、曲ごとに変えるギターもいい。
私は、自分の来し方行く末を思い、しんみりしてしまいました。
ロックって何だったのだろう・・・。そして、コルトーレーンの死後、自分の青春が終わった後、自分を再生してくれたのは、ロックだったと気がつきます。
生きる意味、人生の目的・・・そんなことはどうでもいい。
私にはロックがあった。そしてそれを一緒に聞いてくれるあなたがいた。それでいい。それに気がつきました。
ジャクソンそしてあなたに、ありがとう。私はあなたに感謝していました。